生殖活動を失わせる環境ホルモン
男性ホルモンがかく乱されることによって、動物や人間の生殖行動にも変化が表れているようなのです。
その原因として、環境ホルモンが疑われています。
環境ホルモンがテストステロンの動きをかく乱することがわかったのは、ワニの生殖異常を研究する過程においてでした。
アメリカのフロリダ半島は観光地として知られています。周辺の河川にはありげーたが繁殖しています。アリゲーターはアメリカの南部や中国に生息するワニで、アフリカに生息するクロコダイルよりも体が小さく、性格も穏やかです。
ところが、アリゲーターが激減しているということがうわさされるようになりました。そこで、フロリダ大学の生物学者は、調査を行うと驚くべきことがわかりました。
捕獲したワニを調べたところ80%に何らかの生殖異常が見つかり、中にはペニスが通常の3分の2から、半分に縮小しているものもいたのです。これでは、生殖は不可能です。また、巣の中の卵の多くは死んでいました。
ワニの血液を調べたところ、女性ホルモンの一つであるエストロゲンが通常よりも2倍以上多かったのです。エストロゲンは、動物に発情を起こす物質の総称で、普通は卵巣ホルモン(発情ホルモン)と指します。
一方、男性ホルモンのテストステロンが少なくなっていたのです。テストステロンは精巣で作られ、ペニスや輸精管、前立腺などの成長を促します。テストステロンが少ないということは、ペニスの成長が悪くなるということです。
その後ペニスの小さいワニをさらに調べると、殺虫剤のDDTを検出したのです。DDTが環境ホルモンとして作用し、テストステロンを減らし、その結果、ワニのペニスの成長が悪くなっていることが確認されたのです。
DDTは世界で最もよく使われた殺虫剤です。しかし、今ではDDTを始め農薬の害を指摘し、毒性の認識が高まり、肺がん、胃がん、前立腺がんで死亡した人たちはDDTが2倍も多かったことがわかっているのです。
今ではその毒性から使用が禁止されていますが、使用した分は地層に貯まり、何らかの生物の体内に蓄積されていくことになります。